ERC1400連載の第6回ではConsenSys社のERC1400実装を動かす解説を行いました。第7回の今回は『部分的に代替可能トークンとは』をテーマにERC1410の技術をわかりやすく解説していきます。なお当サイトでは過去にDeFi(分散型金融)に関する連載を行っており、その中で7-ST(Security Token)の概要・市場・STOプロジェクト紹介という記事でERC1400と関連のあるセキュリティ・トークンやセキュリティ・トークン・オファリングについて解説してあります。そちらも別途お読み頂けるとERC1400についての理解がより深まると思いますので、ぜひともご参照ください。
ERC1400から派生した、ERC1410は、部分的に代替可能トークン標準の提案です。このトークン規格では、複数のpartitionsを定義することで、1つのトークンに複数の種類をサブカテゴリとしてを持たせることが可能になっています。個々のpartitionによって、トークン保有者に異なる証券の権利やトークンの状態を付与することが可能です。
Fungible Token(代替可能トークン)との違い
イーサリアムにて発行されるカスタムトークン(暗号資産や仮想通貨と呼ばれます。)の多くは、ERC20を用いたFungible Token(代替可能トークン)です。トークン1つ1つの性質や価値が同一で、種類の同じトークン同士の場合、あるトークンが他のトークンを代替することができます。
一方、ブロックチェーンゲームでよく利用されるERC721を用いたトークンは、NFT/Non Fungible Token(代替不能トークン)です。トークン1つ1つが異なる性質や価値を保持し、種類の同じトークン同士でも、あるトークンが他のトークンを代替することができません。
部分的に代替可能トークンでは、この2つの種類の性質を同時に持っています。以下の図をご覧ください。 図はConsenSys社のERC1400資料を参考にして、作成しています。
出典 : https://docs.google.com/presentation/d/e/2PACX-1vS6pUx-VjdwSfELQwFVlXzq3Ekvxa9wpGTrNJqkp6-CnHxBPecjTEcVq21V6Nsbc-Bp4yq4dZTtp6Kn/pub?start=false&loop=false&delayms=3000&slide=id.g594e042d60_2_18
まず同じpartitionの場合、トークンはFungible Tokenの性質を持ちます。図では、普通株式同士は同じ種類の資産のため、1つ1つは同じ価値を持っていることがわかります。これはERC1400がERC20を継承していることからも当然のことです。
一方で、異なるpartitionのトークン同士はNon Fungible Tokenになります。これはpartitionがそれぞれ異なる資産の種類を表現しているからです。図では優先株式と劣後株式がそれぞれ異なる価値を持っていることから、NFTであることがわかります。
ERC1410では、このようにFungible TokenとNon Fungible Tokenの2つの性質を1つのトークンが持つので、部分的に代替可能トークン(Partialy fungible token)と呼ばれます。
PFT(Partialy fungible token)の用途とは
複数の資産の種類を表す
PFTの用途の1つは、1つのトークンコントラクトで複数の資産を表すことです。例えば企業が発行する複数の種類の株式を例にとってみます。まず普通株式といって、配当を受け取ったりや株主総会で議決権をもてる一般的な権利をもつ株式があります。また一方で、種類株式といって、株式を所有しても全く権利を持たない劣後株式や1株で20票分の投票権利をもてる優先株式(主に創業者が持っています。)といったものもあり、企業が発行する株式にはいくつか種類があります。
複数の資産の種類を表す理由
1つの企業がセキュリティトークンをイーサリアム上で発行するときを想定してみます。複数の種類の証券を発行するために、同じ数だけトークンコントラクトを作成・デプロイすると、費用がかさんでしまったり、発行済の証券の管理が煩わしくなってしまいます。また証券の発行するとき、その都度、規制当局の承認を得なければならない可能性もあります。よって、1つのトークンコントラクトで、複数のpartiton(資産の種類)を保持できるようにして、発行している証券を1つのトークンコントラクトで一括管理を可能にしています。ERC1410では、このように利便性の高いセキュリティトークンの標準規格を目指しています。
資産の状態を表す
partitionはセキュリティ・トークンの状態も表現することが可能です。以下では証券の発行プロセスにおけるpartitionの役割を説明していきます。
図はConsenSys社のERC1400資料を参考にして、作成しています。
出典 : https://docs.google.com/presentation/d/e/2PACX-1vS6pUx-VjdwSfELQwFVlXzq3Ekvxa9wpGTrNJqkp6-CnHxBPecjTEcVq21V6Nsbc-Bp4yq4dZTtp6Kn/pub?start=false&loop=false&delayms=3000&slide=id.g594e042d60_2_18
上記の図では、発行者がセキュリティ・トークン・オファリングを行い、投資家A・B・Cがそのセキュリティ・トークンを購入し、発行されるまでのプロセスを説明しています。総発行高は100トークン、Aに30、Bに40、Cに40のSTを割り当てることになっています。
- まずLocked partitionの状態とは、あるSTOに対して、投資家が参加をエントリーした段階で、投資家にトークンが割り当てられている状態です。この段階からブロックチェーン上には、セキュリティ・トークン(Locked partition)の記録が投資家のアドレスとともに残ります
- 次に投資家がKYCを受けているかどうかを確認して、KYC済みのアドレスにのみ、Reserved partitionが割り当てらてます。Reservedとは、予約済みという意味になります。現在、投資家A・B・Cは新トークン(Reserved partition)を予約できている状態です。
- そして最後にOff-chainで投資家が銀行に購入金額を振り込むことで、正式にST(Issued partition)が発行され、投資家にトークンの権利が付与されることになります。
このようにpartitionは、STの状態も表現することができます。
資産の状態を表す理由
今の説明では、「Issued partition」の部分は、普通のSTを表す部分としてしっくりくると思いますが、前の2つの状態がなぜpartitionとして存在するのか疑問に思ったのではないでしょうか? STには、発行プラットフォームや投資家以外にも複数のステイクホールダが関わっています。例えば、KYCプロバイダーや規制当局などが挙げられます。そのような関係者全員に向けて、STに関わるプロセスの透明性を確保する目的で、発行されるまでの2つの段階もスマートコントラクトで記述して、ブロックチェーンに記録しておくという利用用途が想定されています。
まとめ
本記事では、部分的に代替可能トークンがFungible TokenやNon Fungible Tokenの両方の性質を持ち合わせているということを解説しました。またその中で、partitionがどのように利用可能なのかについても解説いたしました。
参考
https://docs.google.com/presentation/d/e/2PACX-1vS6pUx-VjdwSfELQwFVlXzq3Ekvxa9wpGTrNJqkp6-CnHxBPecjTEcVq21V6Nsbc-Bp4yq4dZTtp6Kn/pub?start=false&loop=false&delayms=3000&slide=id.g5b95ddda87_4_58
https://github.com/ethereum/EIPs/issues/1410