欧州の免除規定の現状とは

  • 2020.01.28
  • 2020.01.28
  • STO
欧州の免除規定の現状とは

EU/EEAの免除規定


STO をEU/EEA構成国において実施する場合、米国と同様に免除規定 があり、調達金額や販売人数などに上限を設ければ目論見書(prospectus)の提出が免除されます。EUでは証券の規制を行う金融当局である欧州証券市場監督局ESMA(European Securities and Markets Authority)が中心となって、EUにおける証券の免除規定を策定・運用しています。またEU/EEAでの共通の規定と各国独自の規定が存在するという特徴があります。

EU/EEAでの基本要件


基本的には、免除規定が適用される要件は以下となります。

  1. 適格投資家(Qualified/Professional Investor)のみが対象
  2. 1国における非適格投資家の募集者が150人未満
  3. 1人あたりの最低購入額/最小購入単位が10万ユーロ以上
  4. 1国における合計発行金額●●●万ユーロ未満


4. の金額については、例えば、チェコでは100万ユーロ、クロアチア/スペイン/英国では500万ユーロとなっていますが、800万ユーロまでの金額を各国が自由に設定できるように最新の Prospectus Regulation で規定されています。

また上記の基本的な要件に加えて、各国独自の要件も追加されます。

適格投資家要件

Anexx(II)of MiFID II


EU/EEA内では、ESMAが定める適格投資家要件の共通のルールとして、「Anexx(II)of MiFID II」があります。多くの欧州各国における登録免除規定では、このAnexx(II)が用いられています。適格投資家は、「自身の投資決定を下し、それが被るリスクを適切に評価するための経験・知識・専門知識を持っている」必要があります。プロの投資家(適格投資家)であるとみなされるためには、以下I.またはII.の基準を満たさなければなりません。

I. 以降(1) ~(4)では、プロフェッショナルとみなされる投資家のカテゴリになります。以下の項目のどれかに合致する主体は、プロ投資家とみなされます。

(1) 以下の機関であるか?

  • 信用機関(銀行等の金融機関)
  • 投資会社(ヘッジファンド等)
  • その他の認可・規制されている金融機関(財団・組合等)
  • 保険会社
  • 集団スキームを運用・指図する会社
  • 年金基金の運用・指図する会社
  • コモディティ・デリバティブのディーラー
  • 地方公共団体等
  • その他の機関投資家(投資事業組合・国際金融機関等)


(2) 企業は以下うちからの二つの事業の規模要件を満たしているか。

  • B/L(貸借対照表)の合計 : 20万ユーロ(約2,340万円)以上
  • 売上高(net turnover) : 4千万ユーロ(約47億円)以上
  • 自己資本 (own funds):  2百万ユーロ(約2.3億円)以上



(3) 中央銀行、世界銀行、IMF、ECB、EIBなどの国際機関、中央/地方政府などのいずれか。

(4) 資産の証券化またはその他の金融取引に特化した事業体を含む、金融商品への投資を主な活動とするその他の機関投資家。これはSPV(特別目的事業体)を意味してます。

II.1 上記の条件を満たさなくても以下のうちから2つ以上の項目を満たす個人が所属し、その個人により取引が実行される場合にのみ、その事業体はプロ投資家として認められます。

  • 過去4四半期の間に1四半期当たり平均10回、大口取引を行っている。
  • 顧客の金融商品のポートフォリオが50万ユーロ(約6,000万円)を超えている。
  • 金融関連知識を持つプロで、少なくとも1年間金融セクターに勤務した経験をもつ。



II.2 II.1に該当する投資家がプロ投資家として認められるためのプロセスがあります。

  • 金融商品に関して、プロ投資家として扱われることを希望することを投資会社に書面で提出する必要があります。
  • 投資会社は、投資家が「プロ投資家」になることで失う投資会社からの保護や補償について、投資家に明確な書面による警告を与えなければなりません。
  • 投資家は、契約とは別の文書で、投資会社からの保護や補償を失うことを承知した旨を書面で提出しなければなりません。


出典

ANNEX II

https://www.esma.europa.eu/databases-library/interactive-single-rulebook/mifid-ii/annex-ii

勧誘に関して


EU/EEA域内では、アメリカ居住投資家への勧誘を基本的に禁止しています。したがって、統一スキームでアメリカ&ヨーロッパの投資家をカバーするためには、アメリカのReg D&SスキームをEU/EEA内のどこかの管轄国にて届ける必要があります。

年間調達上限


EU/EEA域内での発行体の年間調達上限は、基本的に5百万ユーロ(約6億円)となっています。ただしドイツやスイスのような金融ハブではより多く調達できるようになっています。ドイツは8百万ユーロ(約9.4億円)、スイスは8百万CHF(約8.7億円)です。

発行届出手続き

発行体要件


発行体要件として、EU/EEA外の外国法人も、欧州でセキュリティトークンを発行可能です。例えばアメリカの企業は、欧州で資金調達を行うことができます。ただし、エストニアやドイツでは、DR(預託証券)のCustodian(Nominee)としてSPV(Special Purpose Vehicle)の設立が必要になるという例外があります。またEU/EEA内のある国で申請した企業は、基本的に域内のどの国の投資家からも資金調達を行うことが可能になります。

必須書類


調達額が年間調達上限額内で収まる場合、発行体は、欧州市場証券監督局(ESMA)や各国の金融規制当局に、簡易版 Prospectus を提出する必要があります。

申請期間


EU/EEAで共通の規則はなく、各国で異なる規制がされています。

当局の審査


当局に提出された書類は、国ごとに審査される場合もあれば、審査が行われない場合もあります。マルタ・ドイツ・リトアニアでは審査が行われますが、スイス・エストニアでは、登録のみで審査は行われません。

規制に対する方針・動向

方針


金融ハブを目指すドイツやスイスでは、Capital Market の既存ルールの範囲内で規制する方針となっています。また小国はST対応のルールを個別に規定しています。

動向


新しい「Prospectus Regulation 2017/1129」が2019年7月21日に施行され、EUでの統一的な免除規定条件が明記されています。

参考


https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32017R1129

各国の独自規定

スイス:Swiss Financial Services Act (FinSA)


2019年末まで、スイスで Public Law の規定により Prospectus が必須となるケースは、集団投資スキームか株式市場への上場による調達時のみです。これ以外では、Private Law の Swiss Code of Obligations(CO)にて、”public” を対象とした調達を実施する場合に Prospectus が必須とされていますが、”public”の定義が明確にされていない状況です。

そのような状況の中、規制環境整備の一環として2020年1月1日に施行される Swiss Financial Services Act(FinSA)により、有価証券を発行する場合には Prospectus の提出および審査&承認が義務化されます。数か月の移行準備期間が見込まれていますが、2020年中には運用開始されるとのことです。

FinSA における Prospectus 免除規定の適用要件は以下となります。

  • プロ投資家(機関投資家と適格投資家)のみを対象
  • 500人未満の投資家を対象
  • 10万CHF(約1,100万円)以上投資する投資家を対象
  • 最低券面単位10万CHF(約1,100万円)以上の有価証券を販売
  • 総額8百万CHF(約9億円)以下の調達


参考

https://www.efd.admin.ch/efd/en/home/themen/wirtschaft–waehrung–finanzplatz/finanzmarktpolitik/fidleg-finig/fb-fidleg-finig.html

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