はじめに
2つの記事にまたがりDeFiエコシステム内のDEX/Liquidityを提供するプロジェクトについて解説していきます。DEX(分散型取引所)という言葉は耳にしたことがある方が多いとは思いますが、本記事で紹介するDEXは、実際にはDAppsに対し直接的に流動性を提供するプロトコルであることがむしろ本質です。そしてその流動性提供の方法にも様々なモデルが存在し、群雄割拠のような状態となっています。本記事では、DEX/流動性(Liquidity)エコシステムにおける各プロジェクトの概要や差異を出来るだけ分かりやすく解説します。
DEX/流動性プロトコルの概要
DEX/流動性プロトコルが必要とされている理由は主に以下の3つです。1-ユーザーが直接秘密鍵を管理する
中央集権的な取引所では、取引所がユーザーの秘密鍵を一元的に管理します。その場合、取引所がハッキングされ秘密鍵を盗まれたりすれば、ユーザー資産も被害を受ける事になります。しかしDEXであれば、秘密鍵はユーザー自身が管理するため、上記のようなリスクに晒されることがありません。2-DAppに接続し流動性を提供できる
スマートコントラクトを用いたアプリケーションは、DEX/流動性プロトコルのスマートコントラクトをDApps内に統合することができます。ユーザーはDApps内で直接トークンの交換を行えるため、利便性の向上に繋がります。3-グローバルかつオープン
規制の問題とも関係はするため、一概に全てのDEXが誰にでも使用できるとは言い難いですが、現状ほとんどのDEX/流動性プロトコルはKYCを必要とせず、グローバルに流動性が共有される為、DEXをウェブ上で開いてから取引を行うまでが非常にスムーズです。(KYCが存在しない場合に限りますが)検閲耐性・匿名性・UXが高く一部のユーザーからは非常に人気の様です。これはDeFiのもつ”金融包摂”というビジョンとも重なります。
課題
しかし、現在のDEX/流動性プロトコルは依然として発展途上です。取引ボリュームはBitFlyerやCoinbase、Binanceなどといった中央集権取引所には遠く及ばないという状況です。その理由はDEXが抱える独自の課題によるものです。一つ目は、基盤となるパブリックブロックチェーンのトランザクション処理速度が遅いことに起因する交換処理の遅延と手数料の高さです。二つ目に一般的な取引所に比べ、UX/UXが弱いことです。そして三つ目に、流動性が低いことです。これは卵が先か鶏が先かという議論ですが、ともかく絶対的に利用ユーザー数が少ない現状です。
以下プロジェクト紹介では、各プロジェクトがこれらの課題に対してどのように対応しようとしているのかに着目してみることをお勧めします。
プロジェクトの紹介
ここからは、簡潔にプロジェクトの紹介を行います。・IDEXの概要
Etherscanによれば、IDEXは現存するDEXの中で最も取引ボリュームが高いDEXです。6割以上はこのIDEXが占めています( 下記画像 )。IDEXの特徴は、DEXとは言いながらも比較的中央集権取引所のモデルに近い点です。ユーザーの資産を預かるようなことはしていませんが、スマートコントラクトの他に、部分的に集権的なデータベースを活用することで、UI/UXを向上させています。
IDEXは純粋な取引所であり、DAppsに流動性を提供するといった機能はありません。このような特徴を持っていることから、DEXの中でトップの取引ボリュームを有していても、DeFiの文脈でIDEXが語られることは少ないです。
・0x Protocolの概要
0x Protooclは複数のDEX(リレイヤーと呼ばれる)をサポートするオープンプロトコルです。そのため、トレードの際にユーザーが直接0xを使うことはほぼなく、その上に位置するリレイヤーが提供するオーダーブック(板)でトレードの相手を選択し、取引を行うことになります。0xがこのようなモデルを採用するのは、DEX市場の流動性の低さ・参入の障壁の高さを解消するためです。DEX市場に参入したいプレーヤーは0xがスマートコントラクト部分を提供してくれるおかげで、ユーザーが利用するインターフェイスを構築・運用するだけでDEXを作ることができます。
さらに0x上のリレイヤー同士は流動性を共有することができるため、リレイヤーが増えれば増えるほど、ネットワーク効果が高まります。このシステムをNetworked Liquidityと呼びます。
そして、それらリレイヤーの流動性はDAppsにも接続することが可能です。アプリ上で直接的にトークンを交換できることで、DAppsのUI/UXの悪さを解消することができます。
つまり、0xは非常に強いネットワーク効果を秘めたエコシステムを有していることになります。現在0x上に構築された/される予定とされているDEXとDAppsは合計30を超えます。
・Kyber Networkの仕組み
Kyber NetworkのKyber Swapは、分散的に管理されるトークン販売所です。したがってIDEXや0xのリレーヤーのようにオーダーブック(板)を持っていません。Kyberのプラットホーム内には、リザーバーと呼ばれるトークン販売者がおり、ユーザーが交換を申し出た際にこのリザーバーが予め溜め込んでいた分のトークンで交換を行います。リザーバーはユーザーに対して、スプレッド(売買の価格差)で利益をとります。そしてKyber Network自体は、リザーバーからKyberの独自通貨KNCを徴収することで利益を得ています。
この仕組みの何が優れているのかというと、複数のリザーバーがそれぞれ常時複数のトークンをコントラクトに持っているため、ユーザーは常に瞬時にトークンを交換できるという点です。
レートは自動的にユーザーにとって適切な値を算出してくれるので、法外な交換レートを強制されることもないので安心です。
そして(販売所であるKyber Swapの様に)板取引のように難しい操作は必要ない優れたUI/UXを持っています。しかも、KyberはDEXというよりむしろこのKyber SwapをDAppsに組み込むことができる点が優れています。
DAppsに流動性を提供できる点はDeFiのLiquidityプロトコルの特徴であり、先述した0xと同じ機能ですが、両者は裏のロジックが異なります。