免除規定とは
資本市場において、私募や公募で有価証券を発行して資金調達をする場合、通常、その国の証券取引委員会(米国の場合SEC、日本の場合内閣総理大臣宛てに提出)に発行証券を『登録』する必要があります。
例えば、米国の証券法の元では、登録を行って発行される有価証券には、適格投資家と個人投資家の両方を対象にできる / 資金調達額に上限がない / 流動性が確保できる / 資金調達について一般に広告を出すことができるなど登録をするメリットがあります。ただし、200万ドル(約2.17億円)から600万ドル(約6.51億円)の費用 / 準備や証券取引委員会(SEC)に認定されるのに1年前後の時間が必要になる / 監査済み財務諸表の提出義務などの大きなデメリットも存在しています。
そこで、費用と時間を削減するため、STO の多くは『登録免除規定』が適応できるスキームで実施されています。
アメリカでのSTOでは、登録免除規定 の中で、ベンチャー企業向けの措置である RegD (規制506(b)、規則506(c)、規則504)が主に利用されています。
なお、EUやシンガポールにも、STO で利用できる登録免除規定が整備されています。
補足
本記事では、Regulation A+を「RegA+」と表記し、同様に「RegD」、「RegS」を用いて、アメリカの免除規定を表現します。
アメリカの免除規定の現状
アメリカの免除規定には、大きく分けてRegD、RegA+、RegSが存在します。それぞれ異なる資金調達に利用されます。
規制に対する方針・動向
方針
SECは、既存ルール(RegD/S/A+)の範囲内でセキュリティトークンを規制していく方針です。またICOを排除して、発行されるトークンは原則セキュリティトークンという形態しか認めない方針です。
動向
2015年に施行されたJOBS Actという法律により、継続的情報開示義務に係る株主数が500人から2,000人へ引き上げられました。また、適格投資家であることを確認すれば、一般勧誘が可能になるなど、実施コストは下がりつつあります。
RegDについて
アメリカでのSTOでは、登録免除規定の中で、ベンチャー企業の資金調達向けの措置であるRegD (規制506(b)、規則506(c)、規則504)が主に利用されています。
アメリカにおけるSTO で利用されている登録免状規定の中では、RegD 504は、年間調達可能金額が500万ドルまでという制限があり、RegD 506(b)(c)には、調達可能金額に制限がないため、506(506(b)、506(c))の方が多く利用されています。
506(b)と506(c)の違い
506の(b)と(c)の主な違いは、(c)では 適格投資家 に対してGeneralSolicitation (一般勧誘)をすることができるという点です。適格投資家要件としては、506(b)の場合は投資家の自己証明でOKなチェックを行う、506(c)の場合は、投資家が適格投資家であることを証明するステップを発行体がみずから必ず実施しなければならないという要件がそれぞれあります。
アメリカにはリーチ可能な適格投資家のコミュニティがあるため、一般勧誘を行うことを目的として、ST発行プラットフォームでは一般勧誘ができる506(c)に準拠したトークンを発行することが多くなっています。
上記をまとめると、RegD 506(c)の規則にしたがって適格投資家であることを証明するステップを実施すれば、発行体はセキュリティトークンを販売して資金調達をすることが可能です。
適格投資家要件
506(b)(c)には以下のような要件があります。- 住居以外の資産が$1M以上(約1億円)ある個人であること。
- 過去2年間年収が$200,000以上(約2120万円)で、今後も同水準が維持できそうな個人であること。
また504には、投資家要件は存在せず、誰に対しても証券を販売することが可能です。ただし、一般向けの勧誘(General Solicitation)は禁止されており、幅広にオンラインで一般投資家向けに勧誘するなどはできません。
2次流通
発行体から506(c)準拠証券を購入した投資家は、購入後1年間は証券を売却することはできません。1年経過後は自由に売却できるようになりますが、セキュリティトークン以外の通常の証券の場合、私募資本市場には、二次流通市場がなくTrading Forumsなどで買い手をさがす必要がありました。しかし、セキュリティトークンの場合は、 OpenFinanceNetworkやtZERO などの二次流通市場の構築を目指すプロジェクトが多いため、将来的に売買が可能となる見込みです。
資金調達
RegD 506(c) の規則にしたがってSTO を実施する際にSECに提出するFormD は、数日で提出可能なシンプルな申請書を用意するのみで、SECの審査・承認は必要ありません。
また、米国居住適格投資家向けのRegD 506(c)と米国外居住投資家向けのRegS を組合わせた STO を実施することも可能です。なお、米国外居住の投資家については適格投資家などの認定は必要ありません。
またRegD 504が年間調達上限金額が500万ドル(約5億円)なのに対し、506b 506cでは年間調達上限金額に上限がないというメリットがあります。
発行届出手続き
発行体要件
管轄地以外の外国法人も発行可能になっています。例えば、イギリスに登記がある企業が、アメリカでセキュリティトークンを発行することも可能です。
必要書類
Form Dの書類を提出する必要があります。
申請期間
最初の販売日から15日以内に提出しなければなりません。ただし、当局(SEC)の承認等は必要ありません。
期間と費用
プロジェクトの内容/難易度によって数字は上下しますが、RegD 506(c) に遵守してSTO を実施するのに必要な費用と期間はおおよそ以下のようです。
費用
- 法的手続きなどにかかわる費用:USD 12,000~30,000(円換算で約130万〜324万円)
- マーケティング費用:調達金額の 4%~8%相当
- 総額:その他 KYC / AML およびトークン発行などにかかる費用を含めて、調達金額の最大で 10%相当
期間
- ST 実施について専門家に相談を始めてからセール完了まで、だいたい60日かかることが想定されます。
参考
https://www.manhattanstreetcapital.com/faq/for-fundraisers/how-much-does-regulation-d-offering-cost
RegA+について
概要
RegDの他に利用される免除規定として、RegA+があります。RegA+には、Tier1とTier2があり、Tier2の方か年間調達上限額が$30M多く、Tier2より重要になります。
2019年09月11日、「SECがブロックスタックに2,800万ドル分のICOトークン発行を承認(https://jp.cointelegraph.com/news/first-ever-sec-qualified-token-offering-in-us-raises-23-million)」というニュースが発信されましたが、これは RegA+ という RegD と同じような米国の有価証券の免除規定のひとつにしたがって行われたため、このICOによって発行されたトークンは、有価証券、つまり セキュリティトークンとなります。
米国ではHowey Testによって、証券性が判断されます。それに従うと、米国においては、ユーティリティトークンを発行するICOであっても、多くの場合、証券発行としての免除登録をせねばなりません。つまり、米国では一般的に「STO」と表現される調達でも、(1)免除規定の枠組みで、ユーティリティトークンを発行して資金調達した場合と、(2)免除規定の枠組みで、従来の有価証券である株式・債券を発行して資金調達した場合、の二通りがあるため、注意が必要です。
IPO と比較すれば審査内容/期間および開示内容は簡略化されていますが、SECの承認の必要がないFormDの提出のみのRegD と比較すると、SECの審査期間に約1年と数億円の手続き費用がかかり、また、監査済み財務諸表提出や年次と半期報告公開なども必要で、より一般向け公募に近い資金調達の免除規定となっていることが伺えます。
制限事項
適格投資家でない個人投資家などから、5,000万ドルまで資金調達できるRegA+ Tier2に遵守したセキュリティトークン などの証券に投資する場合、1年間に投資できる金額の上限は年収または金融資産の10%までとなっています。またTier1では、年間調達上限が2,000万ドルと少し減りますが、代わりに適格投資家要件はなしなので、より多くの投資家が購入できるようになっています。
米国の州単位の規制については、RegA+ Tier2に遵守した証券の募集&販売に個別の規制はありませんが、取引(二次流通)するためには州ごとの規制にしたがって実施する必要があります。
RegA+では、一般投資家への勧誘が可能で、流通市場への制限がないため、流動性の担保されたセキュリティトークンを発行できることが想定されます。
RegSについて
海外投資家を対象にした、米国外での公募に関する免除規定です。以下のような要件があります。
- オフショア取引であること
- 米国内への直接的な販売がされてないこと
- 発行された証券が米国内に還流しないこと
3要件を満たすことでRegSが適用されることになります。
RegSを利用した資金調達は手間とコストがかかりますが、その一方流動性や利便性は高いと言えます。
外国企業の米国での免除規定
外国の企業が、米国の投資家を対象にしたSTO を実施する場合、RegD 506(c) を利用することが多いです。
ミニIPOと呼ばれるRegA+を利用した場合、非適格投資家を対象にすることができ、流動性もあるなど、魅力的でメリットはあるのですが、RegA+ を利用するためには米国またはカナダに会社を設立しなければならないというデメリットが存在し、外国企業向けの米国内での資金調達には、向きません。
外国の企業が、米国内の投資家には RegD、米国外の投資家にはRegS(または居住国の規定)を利用して STO を実施することが、SEC により認められています。
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