はじめに
ステーブルコインとは、価格の安定した仮想通貨のことを意味します。昨年2018年はステーブルコインの年と言っても過言ではありませんでした。多くのプロジェクトが大型の資金を調達し、その中でいくつかのプロジェクトは実際にメインネットにステーブルコインをリリースさせました。そしてDeFiにおいても、主にMakerDAOのDAIというステーブルコインが非常に重要な役割を果たしています。ここ数ヶ月のDeFiエコシステムの成長はDAIなくては起こりえなかったと言っても過言ではありません。
そこで本記事では、そのステーブルコインについて、その必要性・分類・仕組みなどを具体的に解説していきます。
ステーブルコインはなぜ必要なのか
一口にステーブルコインと言っても、異なった種類・仕組みで成り立っているステーブルコインがいくつもあります。ステーブルコインの分類・仕組みを解説する前に、そもそもの必要性について言及します。ステーブルコインの必要性は大きく分けて3つです。・パブリックチェーン上での価値保存
一つ目に、取引所における資産の回避先としての役割です。日常的に仮想通貨を運用するトレーダーにとって、仮想通貨のボラティリティ(価格変動の大きさ)は頭を悩ませる問題です。しかし、仮に取引所のなかにすぐ交換できるステーブルコインがあれば、わざわざ資産を法定通貨に換金することなしに価値の保存を行うことができます。・現実世界とパブリックチェーン間のゲートウェイ
二つ目に、パブリックチェーン上のトークンの流動性を増加させる役割です。仮想通貨をよく知らない初心者にとって、初めから価格の安定していない資産に手を出すのは非常にリスクの高い行為です。電子マネーの様に価格変動しないコインの流通が活発化すれば、ステーブルコインは現実世界の資産をパブリックチェーン上に流し込むゲートウェイとなりえます。・DApps経済圏の基軸通貨として
三つ目に、パブリックチェーン上での貨幣経済を成り立たせる”通貨”としての機能があります。法定通貨と比較すると、BTCやETHのような仮想通貨は”貨幣の3つの機能”を持っていないことが分かります(価値の交換・価値の尺度・価値の保存の3つの役割の事です。一般社団法人全国銀行協会のサイトで詳しく説明されています。)一般的な仮想通貨は、ボラティリティが高すぎるため、現状、価値の尺度・価値の保存の2つが機能を果たしていません。そしてこの2つがないと、交換で使われることも難しくなります。
以上の観点から考えると、ステーブルコインは価格が安定しているという理由から、より”完全な貨幣”に近いと言えます。それ故に、DeFiのようなエコシステム内でレンディングやデリバティブ取引を行うためにはDAIのような普段保有していても価値が目減りしない通貨が基軸通貨として選ばれるのです。
ステーブルコインの分類
ここまでの解説で、ステーブルコインが”一般的な仮想通貨よりも貨幣として優れている”ということに関しては納得していただいたと思います。ですが、そのステーブルコインは、一体どのようにして価値を保っているのでしょうか。その疑問に対する答えは、3つに分類することができます。具体的には、ドルや円のような法定通貨の価値に担保する「法定通貨担保型」、ETHのような仮想通貨の価値に担保する「仮想通貨担保型」、アルゴリズムにしたがってトークンの供給量を調整することで価格を安定化させる「無担保型」の3種類です。
ここからは、それぞれの種類のステーブルコインについてその仕組みを解説していきます。
・法定通貨担保型
法定通貨担保型の仕組みは非常にシンプルで、1ドルを預かり1ドル分のステーブルコインを発行するという簡単な工程でステーブルコインが発行されます。発行元の企業は預かった法定通貨を安全に保管し、その裏付けを元に、発行されたトークンに価値が担保されます。もちろん市場の動向によっては発行されたトークンの価格は変動してしまいます。そこで、法定通貨担保型ステーブルコインを発行する企業は市場介入を行って、トークンの売り買いを行い需要・供給を均衡させ、価格を1ドル丁度に調整しています。
このモデルの良い点は、ドルなどの法定通貨の価値が安定している限り、パブリックチェーン上で確実に安定している資産を流通させることができるというその一点です。一方で、ブロックチェーンの思想とは反して極度に中央集権化された構造だという批判も拭い去れません。 具体的には、Tetherの例をあげると分かりやすいです。法定通貨型ステーブルコインを発行するTether社は”実際には発行されたUSDT(Tether社が発行するステーブルコイン)の総額を満たすほどのドルを保有していないのではないか”という疑惑をかけられています。
・仮想通貨担保型
仮想通貨担保型は、法定通貨担保型でいう法定通貨が仮想通貨になり、かつその仮想通貨を預ける先が検証可能なスマートコントラクトだという点で、法定通貨担保型とは大きく異なります。現在DeFiムーブメントに大きな影響を与えているMakerDAOを例に説明します。MakerDAOでは、ユーザーはCDPと呼ばれるスマートコントラクトに一定額のETHをロックし、代わりにDAIというステーブルコインを債務として引き出すことができます。
しかし、一定の制約があります。DAIはデポジットされたETHの3分の2以下の額までしか引き出すことができません。つまり、MakerDAOでは、ETHの価格急落が起きてもDAIの価値が下がらないように、余分にETHをデポジットする必要があるということです。
このような制約はトレーダーにとってはあまりメリットはなく、余分担保はCDPを用いた資産運用効率を下げてしまう結果を招きます。そして何より、ETHが担保の限界を超える以上に暴落したら、DAIの価値は無くなってしまいます。
しかし、最も大きな長所として、DAIは”分散的なステーブルコイン”であり、Tetherのような特定の会社を信用するリスクはありません。
そのためDeFiエコシステムにおいては、法定通貨型担保型ステーブルコインはほとんど使われることがなく、DAIが最も利用される通貨となっています。下記画像をご覧いただければ分かるように、DAIは発行開始から1年でほぼ$89M(約100億円)供給され、2万アドレス以上のホルダを抱えています。 ETHの総発行量のうち、3%ものETHがCDPにデポジットされており、今やMakerはEthereumネットワーク上で最も影響力のあるプロジェクトとなっています。
・無担保型
無担保型は、貨幣数量説に基づき、市場のトークンの供給量を元に、トークンを発行・焼却することで、トークンの価格を1ドルにペッグさせるというモデルです。この方式は中央銀行の金融政策を模倣し、かつその核となる意思決定をアルゴリズムによって実行します。したがって、アルゴリズム担保型と呼ばれることもあります。
しかし、残念なことに無担保型のステーブルコインとして最も注目を集めていたBASISというプロジェクトは、アルゴリズムを元にしたトークンモデルが米国の規制に適応できず、プロジェクトを中断しました。
よって、それ以来BASISのモデルである無担保型ステーブルコインを発行しようと試みるプロジェクトはあまり見られなくなりました。
ステーブルコインはブロックチェーンのポテンシャルを解放できるか
これまで、ステーブルコインの必要性・3つの分類とそれぞれの仕組みについて解説をしました。ステーブルコインとは何なのかについて、その概要をご理解いただけたと思います。それぞれに長所・短所が存在し、相互に補完し合いながら、パブリックチェーン上の様々なエコシステムを活発化させていくことになるでしょう。
DeFiに関して言えば、現時点でDAIの存在は圧倒的であり、今後数年はMakerDAOがDeFiおよびEthereumエコシステム内の台風の目となり続ける可能性は大いにあると言えます。