Re-Fungible Token解説 第2回 Re-Fungible Tokenの実装と課題

Re-Fungible Token解説 第2回 Re-Fungible Tokenの実装と課題

はじめに

今回の内容


本記事は、過去にコンセンサス・ベイスが主宰していたオンラインサロンの記事です。記事は2017年~2018年にかけて執筆されたため、一部は、既に古くなっている可能性があります。あらかじめご了承ください。

本連載では、2018年2月に提案されたRe-Fungible Tokenと呼ばれる新しいトークンのアイデアについて全2回で解説します。

第2回では、Re-Fungible Tokenを実現するための前提技術であるBonded Curve Token / Smart Tokenと、Re-Fungible Tokenへの適用を紹介し、Re-Fungible Tokenの考察を行います。

前提知識


前回の記事をご覧になっていない方は、まず下記をご覧ください。
Re-Fungible Token解説 第1回 さまざまなトークンとRFTのアイデア
https://docs.google.com/document/d/1zxan9OXz3uH3ZeRKxaRm8km1hUailGjYXosxpkZA7U4/edit?usp=sharing

第1章 Bonded Curve Token / Smart Token


第1回で紹介したとおり、アートや知的財産などの抽象的な資産をトークンとしてモデリングするには、既存のトークン規格では解決できない課題があります。

その課題を解決するために応用できるのではと考えられているアイデアが、本章で紹介する Bonded Curve Token や Smart Tokenです。

トークンの流動性が低いと、売り手と買い手のマッチングが起こりにくく、少量の取引でトークン価格が乱高下しやすい傾向にあります。

Bonded Curve Tokenでは、トークンの価格は個々の売り手や買い手が決めるのではなく、あらかじめ決められた価格決定曲線に応じて自動的に求められます。

図1. Bonded Curve Tokenにおける価格決定曲線の例(出典: Simon de la Rouviere

例えば、図1に示す価格決定曲線では、市場に流通するトークンの量(Supply)が多ければ多いほど、1トークンあたりの価格(Price)が上昇します。

この価格決定曲線は、購入時と売却時で同じ曲線を使う必要はなく、図2に示すとおり、同じトークンの供給量のときは必ず購入価格より売却価格が下回る形に設計することも可能です。

図2. トークン購入時と売却時で異なる価格決定曲線を設定(出典: Simon de la Rouviere

この価格決定曲線に基づいてトークンの売買を行うため、通常トークンの取引は、トークンの売り手と買い手の間の取引ではなく、トークンの売買を行うコントラクトを通じて行います。

コントラクトにはある程度の準備金が用意されており、ある利用者がトークンを売却したい場合は、コントラクトの準備金からトークンの売却金を支払います。逆に、トークンが購入された場合は、購入金がコントラクトの準備金に補充されます。

この準備金の仕組みは、法定通貨の外貨取引の際に銀行が行っている仕組みに近いでしょう。
各銀行が外貨の準備金をあらかじめ用意しており、日本円を外貨に交換したい利用者がいた場合に、その準備金から外貨を支払います。その場合も、一般的に購入価格より売却価格が低くなるようなスプレッドが設定されていることが多くあります。

銀行での外貨取引の場合、外貨の価格は取引市場で決まるため、多くの買い付けが行われると準備金が不足してしまう可能性があります。
Bonded Curve Tokenの場合、トークンの価格は市場に流通するトークン量に応じて求まるため、トークンを売却する人が増えて準備金が減ると、市場に流通するトークン量が減り、結果的にトークンの売却価格も下がっていきます。したがって、準備金が0に近づくほど、トークンの売却価格も0に近づくため、銀行などのように準備金が不足して取引ができなくなってしまうことはあり得ません。

これにより、トークンの売り手や買い手が薄い場合でも、トークンの流動性を損ねることなく、適正な価格でトークンを取引することができるようになります。

Smart Token


Smart Token (Liquid Token)も、Bonded Curve Tokenと同様に、市場のトークン供給量をもとにトークン価格を決定するトークンの一種です。このプロトコルは Bancor Protocol と呼ばれ、Bancor Networkプロジェクトで実装が進められています。

一つのSmart Tokenは準備金として設定された通貨でしか売買できませんが、例えば「トークンA → ETH → トークンB」といった形で複数の通貨をリレーすることで、任意のトークン間の交換も可能となるトークンリレーなども考案されています。

これらの新しいトークンのアイデアは、本来の目的であった流動性の確保だけでなく、トークンの需要が増減したときの価格決定曲線をあらかじめ設計することができ、そのトークンを用いた経済圏の成長をプログラムとして設計することもできる可能性があります。
その応用の一例が、Non-Fungible Tokenと組み合わせたRe-Fungible Tokenです。

第2章 Re-Fungible Tokenの実装


Re-Fungible Tokenの実装は、Non-Fungible Tokenのオーナーアドレスを、特定の人物ではなく、Bonded Curve TokenやSmart Tokenのコントラクトにすることで実現します。

Re-Fungible Tokenと類似のアイデアをもつQuobandsでは、土地や家屋などの物理的資産をNon-Fungible Tokenとして表現し、その所有権をERC20のFungible Tokenとして表現しています(図3)。
さらに、所有権を表現するERC20トークンの流動性を確保するために、Bancor Protocolとトークンリレーの仕組みを採用することも提案しています。

図3. QuobandsにおけるNFTのオーナーシップモデル(出典: Quobands

Re-Fungible Tokenによる音楽作品の表現例


Re-Fungible Tokenを用いた具体的な表現例として、音楽作品のリリースと普及について考えてみましょう。

まず、新しい音楽作品をリリースする際、その音楽作品の所有権を一つのNon-Fungible Tokenとして発行します。そして、その音楽作品にアクセスするための権利を、Bonded Curve Tokenとして発行し、Non-Fungible Tokenと紐づけます。

音楽作品の権利者は、トークンの流通量が少ないタイミングでトークンを買うことができるため、比較的安価にトークンを手に入れることができます。

この音楽作品を聞きたい顧客は、現在のトークンの流通量に応じた価格でトークンを購入し、音楽作品にアクセスする権利を得られます。この権利は、購入価格より少し低い金額で、いつでも売却することが可能です。

この作品のファンとなった顧客が、より多くの人にこの作品を知ってもらうために、SNSで拡散したり、友人に勧めたりしたとしましょう。それにより、多くの人がこの作品にアクセスするためのトークンを購入すると、トークンの流通量が増加し、トークンの価値も上昇していきます。
トークンの価値が上昇することで、この音楽作品の権利者やファンは、安く手に入れていたトークンを売却して利益を得ることができます。つまり、アーティストは、自分の作品が売れるたびに即座に利益を得ることができ、ファンにとっても自分の好きな作品を広めることが、アーティストの支援や自分の利益にもなる、ということです。

第3章 Re-Fungible Tokenの課題


Re-Fungible Tokenは提案段階のアイデアであり、まだ具体的なプロダクトとして実証されている訳ではありません。最後に、Re-Fungible Tokenの導入で課題となると思われる点を考察してみましょう。

まず、トークンの流通量に応じてトークン価格が動的に変化するというモデルが、アート作品の購入の際に広く受け入れられるか、という課題が考えれます。現在の一般的なデジタルコンテンツは、電子書籍やCD、VODなど、定価で販売されていることが多いでしょう。人気な作品ほど視聴料が高くなる、というモデルが、どこまで現実の市場で受け入れられるかは不確定です。
この点は、価格決定曲線の勾配をゆるやかにしたり、一定の供給量までは定額にする、といった調整で解消する可能性もありますが、それでは逆にアーティストや支援者たちの利益を損ねることにもなります。

また、コンテンツのアクセス権をいつでも売却できるという点は、視聴者にとってはメリットが大きいこともありますが、権利者にとっては逆に損失が発生するリスクがあることも示しています。
実際には、トークンの売却を防ぐために、所有し続けることのインセンティブ設計が必要となるかもしれません。

上記のとおり、まだまだ検討すべき課題も多いアイデアですが、Re-Fungible Tokenによって、アーティストとファンが作品を広めることでお互いに利益を得る仕組みは、これまでにない新しい経済圏を創出する可能性を秘めていると言えるでしょう。

以上。

参考文献

     

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