はじめに
本記事は、過去にコンセンサス・ベイスが主宰していたオンラインサロンの記事です。記事は2017年~2018年にかけて執筆されたため、一部は、既に古くなっている可能性があります。あらかじめご了承ください。
今後、利用促進が期待されているブロックチェーン。暗号通貨以外にも、スマートコントラクトなどの分野で実証実験が進められています。
そんな中、ブロックチェーンを用いた自立分散型の銀行を構想する動きがあります。
「DAO銀行」とも言えるこの構想を立ち上げ、ICOを行ったのはイギリスのスタートアップBABB (Bank Account Based Blockchain)LTD.。
果たして、彼らはどのような構想を描いているのでしょうか。
本レポートでは、BABBのホワイトペーパーを元に自律分散型の銀行である「DAO銀行」の概念について解説し、DAO銀行がどのような問題の解決を目指しているのか、どのような社会的インパクトがあるのかといったことを解説します。
対象読者
自律分散型の組織、ブロックチェーンの国際送金への利用、”Unbanked”問題に興味のある方を対象にしています。
前提知識
基本的なブロックチェーンの知識、仕組みの理解があれば望ましいです。
DAO(Distributed(Decentralized) Autonomous Organization)とは何か?
この話をする前に、まずはDAOの概念から簡単に説明します。
DAOは「Distributed(Decentralized) Autonomous Organization」の略称で、会社や組織が分散的に運営されていることをいいます。
もう少しわかりやすく説明すると、組織をマネジメントする主体が存在せず、予めプログラミングされたコードに従って運営されます。
このDAOの概念を踏まえた銀行というのは、いわゆる銀行を経営する主体は存在せず、利用者とシステムを管理するエンジニアが存在するような銀行です。
私たちが当たり前のように使っている金融サービスも、ここではプログラムによって予め定義されることになります。
ちなみに、DAOと聞く「The DAO事件」を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、これとは一切関連はありません。
DAO銀行が求められる背景
そもそも、なぜDAO銀行が必要なのでしょうか。
BABBのホワイトペーパーでは、世界人口の3分の1にあたる、およそ20億人以上の人々が銀行に口座を持つことが出来ず、預金やローンと言った基本的な金融サービスすら満足に利用できない状況が指摘されています。
このような、特に南米やアフリカなどの中低所得国に多く存在するとされる、銀行に口座を持たない人たちは、しばしば”unbanked”などと呼ばれています。
例えば、南米のコロンビアでは60%程度、アフリカのナイジェリアでは50%、私たちに身近で発展著しいイメージのあるインドネシアやフィリピンですら、未だに60%以上の人々が口座を所有していないのが現状です。
また、これは何も途上国に限った問題ではなく、先進国でも銀行サービスを受けられていないケースが存在します。
実際、BABBが本社を置くイギリスでも150万人が銀行サービスを利用できないようで、彼らがDAO銀行の必要性を訴える背景にはこのような事情があるのです。
DAO銀行の試みは、中央集権型の銀行ではケアしきれていないUnbankedな人々にも、等しく金融サービスを提供することを目指したものと言えるでしょう。
DAO銀行で実現できること
ホワイトペーパーによると、BABBのシステムでは各国中央銀行が発行すると予想されている中央銀行デジタルマネー(CBDC)との連携について言及しています。
実際、2017年後半にCBDCは各国での検証を発表しており、その中でもインド準備銀行の研究チームがブロックチェーン技術を用いてインド・ルピーのデジタル化を行う可能性があるそうです。
BABBは、各国のCBDCをまたいだ送金を実現したり、場合によっては中央銀行に対してBABBの技術を供与する可能性などを示唆しており、法定通貨とBABBが発行するトークンとの連携によってDAO銀行の実現を目指しているものと考えられます。
さらに、BABBはブロックチェーンや生体認証、機械学習などを利用して、分散型銀行サービスの提供を目指すとしています。
彼らの目指すDAO銀行ですが、実際どのような構想になっているのでしょうか。
技術的な観点からの解説を加える前に、具体的なイメージを持っていただくため、まずはユーザーの視点から見たDAO銀行のユースケースを紹介したいと思います。
スマホさえあれば、口座なしに金融サービスを利用できる
BABBが提供する全ての金融サービスはスマートフォンのアプリから利用可能になっています。
これにより、銀行がない地域でも、スマートフォンなどがあれば、金融サービスの提供を受けることができます。
P2P(Peer to Peer)での国際送金
P2Pでの国際送金とは、例えばイギリスで働いている息子が、エチオピアに住む母親に対して送金を行う際、預け入れと受け取りは各々の現地通貨で可能になるというもの。
通常の海外送金の場合、両替などの手間が発生しますが、BABBのシステムを使うことで、それらは不要となるそうです。
資金調達のプラットフォーム
また、P2P資金調達もDAO銀行で可能にするとBABBはホワイトペーパーで説明しています。
クラウドファンディングのような大衆的なものから、家族・友人や招待した人のみが行えるプライベートな資金調達までさまざまな方法を提供すると言います。
このP2P資金調達も、トークンであるBAXを活用します。これにより法定通貨の両替など気にすることなく、資金を集めることが可能となるのです。
その他にも、DAO銀行では融資を受けたり、企業であれば従業員への給与支払いが可能になるといいます。通常これらは外部業者を利用すると、手数料などが高くついてしまいますが、DAO銀行のシステムを利用すれば、これらの費用を削減することができるのです。
DAO銀行を構成する技術
それでは、実際にDAO銀行を実現するために、どのような技術を用いるのでしょうか。
先ほども少し紹介しましたが、主に以下3つの技術によって構成されるといいます。
1, ブロックチェーン
DAO銀行の中核を担う技術として、ホワイトペーパーではブロックチェーンの存在が挙げられています。
ホワイトペーパーの注釈5を見る限り、イーサリアムベースになると見られ、取引の記録だけでなく、身分情報に関するデジタルID発行の役割も担うそうです。
2, 生体認証
銀行サービスを受ける上で必要不可欠なものが認証システムです。
セキュリティがしっかりした認証システムでなければ、ユーザーは安心して利用することはできません。
BABBのDAO銀行では、音声認識と顔認識の両方を用いて認証ができる仕組みを構築するとしています。
また、この認証システムが機能しないことも想定して、ユーザー同士で認証を行うP2P認証も可能にするそうです。
3, 人工知能
DAO銀行に登録したユーザーおよび企業の取引ネットワークを機械学習によって分析して信頼性の高い与信システムを構築するとしています。
これらの技術によってDAO銀行を実現するとBABBはホワイトペーパーで説明しています。さらに、OWASP、PCI/DSSといったデータセキュリティの指針や銀行に課されるPSD2という決済に関する規制もクリアできるようにするといいます。
まとめ
このように、壮大な構想を掲げ、世界中の人々が金融サービスを受けられることを目的としているDAO銀行ですが、果たして、その実現性はどうなのでしょうか。
後編では、技術的な観点を中心に考察してみたいと思います。
参考資料
BABBホワイトペーパー